
一関地方は、藩政時代から独自の餅文化が受け継がれてきた地域。年中行事や秋の収穫時などに「ハレ食」として餅をつく風習は、今も家々に続いています。中でも祝儀、不祝儀でふるまう「餅本膳」は一関地方独特のもの。佐々木善子(やすこ)さんが、その伝統料理を地元で気軽に食べられるようにと、農家レストランを開いたのは平成12年のことです。
一関市花泉町油島。のどかな田園風景が広がる中に、農家レストラン『夢みる老止の館』があります。その柔らかい響きのネーミングには、「美味しいものをたっぷり食べて夢を語り、ゆったりと過ごして老いを止めるところ」という意味が込められているそうです。期待感を抱いて訪れる客を出迎えるのは、築200年という日本家屋の建物と昭和初期に建てられた蔵、大正期のモダンな茶室、純和風の庭園など、懐かしい旧家の佇まいです。
7年前といえば、岩手では自宅を改装したレストランなど、まだ珍しかった時代。
「ここまで続くとは思わなかったわ。3年ぐらいでおしまいかな、とも思った」。そう話す佐々木さんですが、レストランの開業は、決して一時の思いつきなどではありませんでした。ご主人の実家である花泉町に嫁いで以来、地元の生活改善グループ(現在の全国生活研究グループ)で食に関する活動を続けていた佐々木さん。実は、若い頃からずっと店をやりたいと思っており、生け花や手芸、食品に関わる資格など、少しずつ機会を見つけて勉強をしていたのだそうです。その一方で、平成5年から、花泉町が餅料理の普及を目的に発足した出前餅つき隊「餅・モチグループ」の代表として、県内外を飛び回るようになります。しかし、地元で餅料理を気軽に食べられる店がなかったことから、自宅を改築し農家レストランを開業したのです。

レストランでふるまうのは、餅膳と山菜膳。お料理をのせる漆器は、自宅の蔵に保管されていたものです。「一関は餅料理が伝統だけれど、それだけじゃつまらないでしょう。だから、地元の食材を使った山菜膳を用意してね、自分も楽しみながらやっているの」と笑う佐々木さん。餅膳には4種類の餅と吸い物が並びます。ふすべ餅はゴボウと鷹のツメを使ったピリ辛の味付け。プチプチと食感が楽しい沼エビ餅、エゴマをすり潰したじゅうね餅、甘みを抑えたあんこ餅と、それぞれ味わい深く、全てつきたてです。山菜膳には、地元の山菜やキノコ、野菜や果物、野草、自家製のブラックベリー酒まで十数種が並びますが、忘れていた野山の香りや季節をいっぺんに思い出すような料理に、心が癒されます。餅は一品ずつ出来たてを運び、お代わりも自由。事前に言えば餅の種類を交換できるなど、「食を愉しんでもらう」ことに徹する、佐々木さんの姿勢が伺われます。


レストランは、予約を受けて営業しますが、昨年は全国各地からのべ1500人ほどがこの場所を訪れました。お客さんが訪れる日、佐々木さんは早朝5時から支度にかかるのだとか。玄関と座敷には庭先の花や敷地内の枝木を大胆に活けた花をあしらい、部屋全体に香を焚き、料理の下ごしらえ…。そして、来客の有無に限らず欠かせないのが、庭先の樹木や家周りの手入れだそう。古い建物や庭をもてなしの場として維持するのは、想像以上の気配りが必要なのでしょう。
レストランの営業以外に、出前餅つき隊の出張や産直での餅販売、小学生を農家見学に招いたりと様々な活動をする佐々木さんですが、地元食材や餅の普及を盛り上げるため、加工や開発にも力を注ぎます。大根を千切りにして煮つけた「つまみっこ」、鍋や汁物にさっと入れて食べる「さぶ(しゃぶ)もち」など、アイデアと工夫を凝らして、まだまだ夢を追いかけます。

餅料理をふるまう農家レストラン。餅膳・山菜膳2,100円と餅膳・山菜膳+天ぷら3,150円の2コースがあります。庭先で秋田大黒舞や餅つき歌を披露しながら餅をつく出前餅つき隊の出張サービス(別途8,000円)は、首都圏の旅行客に人気です。
■住所/岩手県一関市花泉町油島字上柏木39
■電話/0191-82-2722
■営業時間/昼の部 11:30~15:00
夜の部17:30~20:30(4名以上で10日前までに予約)